project story

選び抜かれた天然マグロの美味しさと水産の持続可能性を繋ぐ
『天上鮪』ブランドの開発ストーリー

  • 職種:調達・マグロ/部長

    入社:1993年

    『天上鮪』のオススメ
    アイルランドの天然本マグロ

  • 職種:販売・マグロ

    入社:2008年

    『天上鮪』のオススメ
    ナミビア沖のキハダマグロ 赤身

  • 職種:調達/販売・マグロ

    入社:2018年

    『天上鮪』のオススメ
    インド洋(マントル)のビンチョウマグロ

※取材内容、所属はインタビュー時点のものとなります。

まずは『天上鮪』を立ち上げた経緯を、
教えてください。

TOREIの創業とともにスタートしたマグロ事業は約50年もの歴史があり、私も入社以来30年以上マグロ事業に携わってきました。“日本中に美味しいマグロをお届けしたい”という想いを追求し、世界中の漁場から仕入れを行い、そこから-50度に保ったまま日本各地にお届けするという超低温コールドチェーンを構築することで、国内トップクラスの取扱量を揺るぎないものにしてきました。一方で、これまでTOREIはB to B※1がメインで、裏方としてマグロの供給を支える存在でしたから、マグロのプロフェッショナルとして、その魅力をもっと外に発信していきたいという想いがありました。

私は、ほぼ毎日マグロの水揚げに立ち会い、1日数百本のマグロを見て、実際に目利きをして品質を確認しています。もちろん味を覚えることも大事で、いろんな種類、時期、漁場のマグロを食べてきましたが、感動するほど美味しいマグロって、やっぱりあるんです。でもそうした極上のマグロやベテランの目利きだけが知る美味しいマグロは、高級寿司店などのこだわりある飲食店に卸すことが多く、スーパーや量販店では手に入りづらい。ならば、本当に美味しいマグロをご家庭で食べていただく機会を提供できないだろうか、それがプロジェクトのスタートでした。

一方で、その“美味しいマグロ”が危機的状況にあるのも事実です。実は、日本のマグロ漁船の多くが、美味しさを求めて、時期と漁場にこだわった漁をしています。しかし、マグロの減少や生産者の高齢化によって、日本のマグロ漁船は年々減少しているのです。“美味しいマグロを次世代に残したい”と考えた時、私たちは流通業者として、彼らのこだわりを一人でも多くの方に届けることで、マグロの魅力や価値、生産者のモチベーションを上げて、業界全体を盛り上げないといけない。だから、ただ美味しいマグロを売るだけでは意味がない、未来に繋ぐプロジェクトにしたいと思っていました。

“美味しいマグロを届けたい”“マグロ漁業の持続可能な未来に貢献したい”。この強い想いを込めて、TOREIの目利きが選んだ、トップ・オブ・ザ・トップを取り扱う天然マグロブランド『天上鮪』を立ち上げる。それを聞いて、TOREI だからこそやるべきプロジェクトだと思いました。当時、私はTOREIのEC※2サイト構築に携わっていましたが、そこから『天上鮪』のブランド立ち上げに伴うEC事業の店長を任されたのです。まさにTOREIの中核事業における新たな挑戦に参画できるという嬉しさ反面、マグロの販売経験はゼロ。私にとっては、そんな喜びと不安の入り混じったスタートでした。

※1 B to B:Business to Businessの略。企業が企業に対しモノやサービスを提供するビジネスを指す。対義語は企業が一般消費者に直接モノやサービスを提供するB to C(Business to Consumer)

※2 Electronic Commerceの略。ネット通販等の電子商取引を指す

水揚げ後の固体選別の風景。この他に尾切り選別、出刃選別などで目利きによる品質確認が行われる。
マグロが保管される、TOREIの超低温冷蔵庫

『天上鮪』の特徴を教えてください。

まず1つめは、最高品質だけを集めたラインナップです。世界中で獲れるさまざまなマグロの中でも、お客さまにどんなマグロを提供するのか。そこは天然マグロを担当する私の部署の総力を結集して、若手からベテランまで喧々諤々の熱い議論が交わされました。

まずは高級寿司店で出されるような最上級マグロでいえば、アイルランド島の極寒の海で漁獲される天然本マグロ。これは赤身の味わいもトロの旨味もまさに最高峰です。また、南半球の高緯度地域で漁獲されるインドマグロの味も格別です。私のオススメはマントル漁場で獲れたビンチョウマグロ。脂が甘くてしつこさがなくスッと溶けていきます。スーパーでも見かけるマグロではありますが、『天上鮪』では旬と漁場を見極めた、ワンランク上のビンチョウをお届けしています。

そう、このビンチョウのように、最高級品だけでなく最高品質となる目利きのプロの目線から見た逸品もラインナップされています。私のオススメは、お求めやすいマグロの代表格であるキハダマグロ。その中でも、ナミビア沖で5、6月に漁獲されたキハダの赤身は別格の美味しさです。季節の果物や野菜と同じで、僕らプロの目から見ると同じ価格の赤身でも、この漁場のこの時期で漁獲されたマグロの赤身が旬で美味しいということを伝えたいんですね。

私もナミビアのキハダを食べた時、こんなに美味しい赤身があるのかと衝撃を受け、ガラッとマグロの概念が変わった瞬間でもありました。これはぜひ皆さんに食べてもらわないともったいない。もっと深く知ってもらいたい。そこで2つめの特徴が、漁場となった産地を表示しています。ワインやコーヒーのように、産地や品種にこだわる人が増えていますが、スーパー・量販店に並ぶ刺身マグロを選ぶ時って、大トロ、中トロ、赤身といった表記しか注目されていないのが現状です。これからは産地を見ながら食べて、好みのマグロを見つける。そんな新しいマグロ体験を楽しんで欲しいのです。

そして最後の特徴が、こうした『天上鮪』ブランドポリシーとなるブレないこだわりをお客さまにきちんとお知らせすること。それが単なる商品カテゴリーとブランドの違いであり、その付加価値に共感していただいて購入していただけるようになれば、私たちだけでなく、マグロ漁に関わる生産者の大きな支えになると思っています。

天上鮪の7つのこだわり

今後、『天上鮪』はどう展開していきますか?

やはり「美味しいマグロが食べたい」と思った時に、「あ、天上鮪がある!」と思っていただける存在になりたいですし、この最高品質は世界でも通用すると思っています。『天上鮪』は、2021年にEC事業からスタートしたばかりですが、ECサイトの販売に加えて、現在は百貨店での販売も進めています。そこで試食してもらっているのが『本マグロのたたき』。スーパーで販売されている『ねぎとろ』の多くは、ねっとりした食感を出すために油脂を添加していますが、『天上鮪』のたたきは本マグロ100%。本マグロが本来持つ上質な脂による柔らかさと味の深みを知ってもらって、多くの方から高評価をいただき手応えを感じています。これをステップに、今後は全国の百貨店、鮮魚専門店で最高品質の『天上鮪』の認知拡大をスタートさせ、ゆくゆくは世界中に『天上鮪』ブランドのファンを増やしていきたですね。

毎日のように、世界中の海からきたマグロが水揚げされていますが、旬は限られているため、同じ漁場の同じマグロは年に1回のタイミングしかありません。そのため、魚を選ぶこと、覚えることは、どうしても経験が必要になります。そのタイミングを大切にしながらしっかり目利き力のバトンを受け継ぎ、一方で、この新しいEC事業は私たち若い世代が切り拓いていきたいんです。若い世代が魚を選び、新しい発想を詰め込んで広げていきたい。例えばECサイトで6ヶ月のサブスクを始めたように、新しいアイデアを積極的に出して新たな販路を拡大させ、マグロの食文化を広げていきたい。TOREIだからこそできる、マグロ事業で社会に貢献できる存在になっていきたいですね。

嬉しいというか、これは健全な姿だなと思います。親の背中を見てそのまんま真似てもしょうがないし、ある意味、反面教師でもいいと思っています。私の昭和の考え方と令和の考え方は違うはずですから、若手らしく思いきったチャレンジをしてほしい。そこをどう管理していくかが私の仕事だと思っています。一方で、天然の産物を扱う以上、天候や海の環境変化をはじめ、たくさんの困難や厳しい局面もあり、正直、簡単で楽な仕事ではありません。しかし、日本の食文化を支え、マグロという一大産業のリーディングカンパニーとして産業の継続性を考え、そこに従事するすべての人たちが楽しんで仕事ができる業界にしていく使命とやりがいは大きいものがあります。その新たな切り口となる『天上鮪』ブランドが、新たな変化のきっかけになることを願っています。

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